大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和46年(オ)521号 判決 1974年10月24日

上告人

香西運吉

右訴訟代理人

佐藤智彦

佐藤克行

被上告人

株式会社

高田金物店

右代表者

藤田嘉平二

右訴訟代理人

松坂清

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人佐藤智彦、同佐藤克行の上告状および上告理由書記載の上告理由について。

原判決によると、原審の認定した事実は次のとおりである。

上告人は、昭和四三年一二月ごろ訴外有限会社丸善鉄工所(以下、丸善鉄工所という。)に対する八〇万円の約束手形金債権に基づく強制執行として、丸善鉄工所(債務者)の被上告人(第三債務者)に対する工事代金債権七〇万円(以下、本件工事代金債権という。)に対し福島地方裁判所郡山支部より債権差押ならびに転付命令を取得し、右命令正本は、被上告人に同月二一日、丸善鉄工所に同月二七日、それぞれ送達されたが、これより先、上告人は右強制執行を保全するために、本件工事代金債権に対し同裁判所より仮差押命令を得、この命令正本は同年九月八日被上告人に送達された。しかして、本件工事代金債権は、その額が同年九月七日現在で五二万五〇一六円であつたところ、被上告人は同日債権者丸善鉄工所の代理受領権者である訴外株式会社福島八幡(以下、福島八幡という。)に対し、右工事代金支払のために株式会社東邦銀行棚倉支店を支払人とする代金相当額の小切手を振出し交付し、福島八幡は同月二〇日同行支店に右小切手を呈示してその支払を受けた。ところが、上告人は、前記転付命令に基づき、本件工事代金債権を取得したとし、被上告人に対して工事代金七〇万円の支払を求めた。

以上の事実関係のもとにおいては、被上告人は、本件工事代金債権に対する前記仮差押命令の送達を受けた日の前日、仮差押の目的である右工事代金支払のために代金相当額の小切手を債権者である丸善鉄工所の代理受領権者福島八幡に振出し交付したものであつて、このような場合には、同小切手の支払が、前記仮差押命令の被上告人に送達された後になされたとしても、これに対しては同仮差押命令の効力は及ばず、被上告人は、同小切手の支払によつてその原因債権である本件工事代金債権が消滅したことを仮差押債権者である上告人に対抗することができ、したがつて、同工事代金債権を目的とする前記債権差押ならびに転付命令はその効力を生ずるに由ないものと解するのが相当である。してみれば、これと同旨の見解のもとに上告人の本訴請求を排斥した原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。なお、所論のうち違憲をいう点は、その事由を明らかにしないし、まだ判例違背をいう点は、所論引用の判例は事案を異にし、本件に適切でない。それゆえ、論旨は、いずれも採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(岸上康夫 藤林益三 下田武三 岸盛一)

(大隅健一郎は退官につき署名押印することができない)。

<上告理由省略>

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